Re:Reflex pt.2

uizcatchthebeat2007-08-15

This closeが初出となった
Call Meシングルには
Call Me
(Mitsu The Beats remix)
が収録されているが
Mitsu氏が
Doubleの意図を十二分に受け止めて
音数を厳選し
太いビートに組み替えた
正に90's R&Bのエッセンスが注入された仕上がりになっている。
即ち、
Call Me=UpdateなR&B
This close=現代感覚で作られた90's的R&B
Call Me(remix)=UpdateなR&Bを90's的解釈で再構築
という、
アーティスティックな自覚、
換言すれば批評性の高い作品となっている。
Remixは次作"Reflex Remix"に収録されるが
Call MeのPVのMakingはここでしか見られないので未見ならば入手を。

Call Me (DVD付)

Call Me (DVD付)



Reflex,This closeの流れで
どっぷりとR&Bの世界に入り込んだところに
Autumn〜Interlude
電車の走る音、ため息、風のSEが挿入され
ハープの音が聞こえてくる。
本作の最初の山場、
WHY DO YOU GOへの導入である。
胸を詰まらせるこのストレートな失恋モノは
多くの、特に女性リスナーの支持を得るものだろう。
そればかりか
R&Bの一大テーマである悲恋を
日本語で表現したこの名曲は
アルバムからのアンカッツ
(今後シングルリリースの可能性が無いとはいえないが)
クラッシックとして長く語り継がれると言っても過言ではないだろう。
ProduceはR&B好きにはお馴染み
Loren Dawson。
Doubleとは"Wonderful"所収の"Had to"以来となる。
Ginuwine,Dave Hollister,O'ryan,Amerie・・・等々との仕事
(近作はKelly Rowland)があるが
Whitenyの4thオリジナルアルバムではStringsのクレジットがあり
今作のようなハープのモチーフはお手のものと言える。
筆者はMary J Bligeの大ファンでもあるが
Maryのキーボーディストとして長年仕事をしてきたLorenと
Doubleとの間にまたこうした名曲が生まれたことを嬉しく思う。
なお、Summertimeの限定サイトで事前に
"Song No.8"としてデモが公開されていた
「ハープバージョン」は
加工前の生々しい歌唱とあいまって
完成版とは異なる独自の素晴らしさを持っていた。
何らかの形で正規リリースが望まれる。
この⑤→⑧までの流れは
何度聞いても飽き足りず
本作をR&Bクラッシックの棚に
新たに収めるに相応しいものにしている。


ここから第二幕スタート。
Summertime feat.VERBALである。
本作のコンセプトは四季、でもあるが
春→秋、と来て
夏に戻るのである。
春夏秋冬を整えることも出来たと思うが
アルバム全体の曲調、流れを考えた選択だろうか。
失恋の後の、新たな恋探し、である。
さて、率直に本曲、「問題作」ではあった。
従来のDoubleのみが持ちえたクールネスや
classyなイメージを無視したような
突き抜けた極度に明るい曲調と
あまりにストレートな歌詞が
大いに議論を呼んだ。
なにせサビが「海へ行こう、すぐに行こう、みんなで行こう」である。
アホすぎる・・・
俺の私の、あの誰の追随も許さない、段違いに格好良いDoubleが・・・
と涙したファンは少なくない、かもしれない。
最近のDoubleは自身の従来のイメージから脱却することを恐れず
寧ろ従来のイメージは十分に浸透し
そうした作品作りも重ねてきたので
今までしてこなかったことをしてやろう、という主旨のことを語っている。
アーティストはファンの期待の枠内に居続けることで
旧来のファンの溜飲は下げることが可能だが
アーティストの成長発展は無いだろう。
「あのDouble」がこうした曲もやった、という文脈で
楽しむ余裕があってもいい。
本稿で他アーティストを引き合いに出すのは本意でないが
例えばMinmiの「サマータイム!」や「シャナナ☆」は
「振り切れてる夏曲」で馬鹿明るさを表現しつつ
音楽的に緻密で、クールさも失われていない、と思う。
Doubleがもし今後もこの路線に取り組むなら
「馬鹿っぽくて自然に笑えて、でも恥ずかしくない」と
思わせてくれることを期待したい。
m-floが個人的に苦手であまり熱心にフォローしていない筆者には
VERBALのラップを評価する立場に無いが
本曲に合わせた声の作り方はフィットしているように感じる。


Arabian Dream
Jonas Jebergの手による一風変わったアップ。
Kylie Minogue、Mya、Nina Sky、日本ではAIとの仕事でも知られるJebergは
US在住「でない」(デンマーク)プロデューサーだからか、
USのR&Bを異なるニュアンスで提示するのが上手い印象がある。
中近東「的」(本来の中近東流行歌とは違う、という意味で)なメロディラインを
R&Bに組み入れるのは昨今一般的だが
そこに一癖感じさせている。
童話チックな可愛い歌詞も微笑ましいが
ここでは途中で登場するDouble自身によるラップが印象的。
Shakeでのタイトなラップ(LyricはRyu)を想起させる。


EmotionsもJebergのトラック。
発表時は配信のみだったので
こうしてCD化されたことは
PCユーザーでないファンにも朗報だろう。
Crazy In Love効果で2003-4は派手なホーン使いがR&B界を席捲したが
本曲はそのフォロワーに終わっていない。
2ヴァース目から
What's going onとリフレインされ
サビに至る「タメ」と「開放」の妙味。
歌詞世界も独特で
「ボーイフレンドをまたいで電話に出たら仕事の依頼」
「ダルいけど始めてみたら想像(創造)が膨らむ」
というもので
文句を言いながらもワーカホリックで創作活動に執心する
Doubleの素顔が垣間見える気にさせられる。


⑨→⑪と続くアップで最後を飾る
ROCK THE PARTY feat.BOY-KEN&ORQUESTA DE LA LUZ BAND
"Wonderful"のプロジェクトを終え
サイドプロジェクトの"Life is beautiful"以降
オリジナルの新作を待ち望んでいたところに
next levelのヴィジュアルイメージ(ジャケ、PV)と
打ち込みと生バンド(それも超ベテラン)の融合を提示し
期待を遥かに凌駕した曲である。
当時このインパクトのままアルバムリリースを期待したが
結果的に2年半を経て
さらに多様な曲をものにし
本曲自体も全く古さを感じさせないのだから
アーティストパワーに敬服するしかない。


ここまでのアップ攻勢の熱気を
穏やかにクールダウンさせる⑬Winter Love Song
Troy TaylorもR&Bプロデューサーとして著名であるが
ここではかなりオーソドックスなR&B、
例えば80年代ブラコン(!)にあっても
Mariah Careyが歌っていても不思議でないような、
楽曲が提供されている。
一部で本曲を歌謡曲やJ-Popに例える声があるが
それは今に至るまで日本のPopsが
Black Musicから多大な影響(時にパクリ)を受けてきたからであって
順序が逆、である。
長く愛聴される曲に共通した
どこか懐かしい既聴感を持った佳曲である。
ちなみに、
SPRING LOVEは
当初SPRING LOVE SONGという仮タイトルだったものを
スタッフの勧めでSONGを省いたという話だが
本曲は歌詞にも合わせてSONGとしたのだろうか。


LP時代(!)なら、
①-⑧がA面、⑨-⑬がB面で成立してしまう仕上がりだが
CDは第三部に突入する。
D-O-U-B-L-E〜interlude
ライブのアンコールを想起させる。
もう一盛り上がり、を期待するところに
Call Me
圧の強いイントロから
なだれ込むようなメロディラインは
今聞いても秀逸だ。
「アイスクリーム」や「甘く狂おしく」といったセクシーな表現は
R&Bの定番だが「逆の魅力」という言葉遣い(さりげに押韻)が後を引く。


THE LOVE ON FIRE
ラテンライクなギターを配したミッド。
アルバム曲の中では異色だが
終盤への橋渡しによくマッチしている。
「don't go,don't どこへも」とスタッカート気味に
歌を乗せているが
こうしたリズムとメロディへの配慮、
日本語と英語の織り交ぜ方も
生来のバイリンガルとかではないDoubleが出来てしまうことに
改めて関心を払うべきだ。


終曲、Run Away Love feat.Lupe Fiasco
タイトルからLudacrisとMaryの名曲を連想するが
DJ Uppercutによる全くの別曲である。
本作の制作動機に
USの現行R&Bのフォロワーたらんという意識は少なかった
(もはやそこに重点を置かなくても同等なことが出来る)
と伝えられるのは先述したとおりであるが
本曲は始まった途端
US R&Bの新譜と言われても全く違和感が無いムードを携えている。
昨年、USでデビュー前から最も関心を持たれたMCであり
Kanyeの新しさやTalib Kweliのようなコンシャスネスを感じさせつつ
ナードな感性の中に垣間見せるギャングスタ顔負けの攻撃性や
他に類を見ない比喩表現で
シーンに大きなインパクトを与えたLupeが参加し
本曲でもちょっとひねったロマンティックなラップを提供したことで
本アルバムの価値はより一層高いものとなっている。
しかし
近年のR&Bにありがちな、
人気ラッパーをfeaturingすることで耳目を引き
「ストリート寄り」を演出し
Hip Hopの購買層を引き込もうという意図が
先にあったわけではなさそうだ。
Doubleはそうした話題性を先行させたのではなく
今年3月のSpringrooveでの共演時に見初め
是非にと依頼したという。
筆者もSpringrooveのLupeのパフォーマンスには
いたく感激した一人だが
Doubleはそこから一目惚れや逃避行の
恋愛妄想(!)を展開させている。
恋愛賛歌SPRING LOVEで幕開けたアルバムは
歩むが如きリズムの中
逃避行願望の儚く危うげな余韻を残しながら
60分強の幕を閉じるのである。




最後にもう一度。
あなたがR&Bに少しでも興味があり
良質な音楽を求めているのなら
是非Reflexを聞いてみて欲しい。
我々の生は有限で
苦悩も少なくはないが
同時代にこのような名盤が生まれ
聞けることは大いなる喜びである。
大袈裟だと思うなら買って来い。
話はそれからだ。
Reflex(初回限定盤)(DVD付)

Reflex(初回限定盤)(DVD付)



では諸君。
ライブで会いましょう!