Re:Reflex pt.1

uizcatchthebeat2007-08-14

世間には
「自分の音楽は
ジャンルに縛られたくない」
などとのたまう
自称アーティスト、
なヤカラがいる。
そのジャンルへの愛情も
先人への尊敬も
ジャンルを深化させようという意欲もなく
エゴだけが突出した手合いであろう。


元より。
日本で
US OrientedなスタイルのR&Bを
メジャーでおよそ10年続けてる
女性シンガーは
後にも先にも例が無いのであって
比肩の対象すら見当たらない。
さらに
USのメインストリームなR&Bを十分に理解咀嚼しながら
そのトレンドの追随にとどまらず
独自の完成度を誇っている。
もちろん
この素晴らしいアルバムは
頑迷で口うるさいR&Bマニアをのみを唸らすためのものではなく
全ての良質な音楽を求める聴き手に
広く開かれているのだが。


にしても、
3年9ヶ月である。
"Crystal"から"Double"(1年4ヶ月)、
"Vison"(2年)、"Wonderful"(1年1ヶ月)。
各オリジナルアルバム発売までのインターバルは
Double史上最長となった。
環境が異なるので
比較にはそれほど妥当性が無いものとして
参考程度に挙げておくならば
たとえばToni Braxtonは2ndから3rdに4年、
Whitney Houstonは3rdから4thに7年をかけている
(但し、前者はレーベル契約の問題、
後者は女優としてのキャリアを優先した結果であるが)。
もちろん
本作に至るまでの各シングル曲やPVは
各々クォリティを高く維持したものであって
シーンにおける不在感も感じさせず、
キャリアの蓄積、
特にDJ LillyとJazzアルバム"Life Is Beautiful"が
有意義な影響を与えたことは
本人がたびたびインタビュー等で明言している通りだ。


真に字義通り「待望」の、
オリジナル5th
(以前、"Crystal"を「プロローグアルバム」と呼んでいたので
4thと考えて良いかも知れない)
アルバムは"SPRING〜Intro"で幕を開ける。
水流や鳥の声と共に
続く"Spring Love"のモチーフを活かしたピアノが挿入され
大仰ではないが静かに胸の高鳴りを感じさせる。
以下、Doubleのアルバム中では通例となったInterludeが
今回は3トラック配置されているが
"Vision"以降、同様のPISCESがクレジットされている。
今回のアルバムで1000曲に及ぶトラックを吟味したと伝えられ
常に新たな才能との出会いを渇望しているDoubleであるが
一方では基本的な制作チームや
継続したパートナーシップの存在を伺わせる。


実質1曲目の"Spring Love"は
ヌーディなPVの話題が先行した感があるが
俯瞰した天使の視点から
多重コーラスで歌い上げられる恋愛賛歌であり
Doubleの中でも新機軸と言えるものであった。
このトラックを手がけたSamantha Powell
Terri WalkerやMis-teeqなどのキャリアがあるUKの女性プロデューサー。
ポップさと繊細さを同居させる仕事はUKならではと言えるかもしれない。
もちろんこの曲の印象を決定付けている松本圭司氏の美麗なピアノと、
「チームDouble」ではお馴染みmarkee氏の仕上げも無視できない。


浮遊感を伴うこの曲から
ビート感とアナログノイズのざらつきを加えたInterlude
"DOUBLE'S STYLE"が挿入されることで
リスナーの耳は引き付けられることになる。


続く"We International"は
小気味良いセルフボースト。
Hip HopとR&Bが緊密な関係にあるUSでは自然なテーマだが
日本ではあまり例が無いかも知れない。
少なくとも筆者は自分のアーティストネームを
曲中でここまで繰り返す日本のアーティストを
他に知らない。
ゲストMCのAK'Sentは"All I Need(remix)"のお返し参加となるが
正直それほど優れたリリックやライミングを披露しているわけではない。
USの女性MCの平均的なスタイルに感じられる。
但し、制作が多忙を極めて疲弊していたDoubleに
若さでフレッシュなエンパワーがあったということであり
その効果は出ていると言えよう。
長年聞き続けているDoubleファンは
ここでのヴォーカライゼーション(抑揚や声の使い方、表現)に
少々の驚きを感じるかもしれない。
あまり気張ったり太い声を出さない印象があるからだ。
しかし良し悪しはともかく
Beyonceのような「(ゴスペル由来の)こね回す」
歌い口が一般化していることや
本格派としてのKeyshia Coleが大きな支持を得たこと
(Doubleも愛聴盤として度々紹介)から
少し感情を露にしたような歌唱にも自分でGOを出したのでは、と推察される。
トラックは"Rollin' On"からの付き合いとなるTrackboyzだが
こうしたビートは既に楽々と乗りこなしている感がある。


USトレンドを考えれば
このままサウスやベイ寄りのサウンドを続けても悪くなかったかも知れないが
ここでDoubleはR&Bの言わば「品性」を失わず
力強いヴォーカルはそのままに
疾走感とクールさが同居したアルバムタイトル曲"Reflex"を繰り出す。
この煌びやかな音の立ち方と
ビートの抜けの良さ、
後ろに配置された"Rock That,Nice N'Slow"のヴォイス
(なんてR&Bな言葉選び!)で
Goh Hotoda氏の卓越したミキシングを感得出来る。


間髪入れず始まる"This close"は
シングル"Call Me"のカップリングだった曲。
発表時からいわゆるR&Bファンに高く評価された
「ド真ん中」の佳曲である。
切なさを携えたリフレインは90年代R&Bを想起させ
初期からのDoubleファンも満足させるものだろう。




pt.2に続く。